SPECIAL~特集

特集2.日本の大衆音楽(4)演歌、歌謡曲と西洋音楽 談 菊池清麿

 
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高度成長前夜

 対日講和と独立が近づくと、歌詞に「アイラブユー」という言葉が入る「星影の小径」、帰らぬ人を想う哀愁も相まってアメリカナイズされた若者にも好評だった「上海帰りのリル」などが流行しました。
 いろいろな歌謡史では、昭和26、7年頃は戦後のジャズブームによって流行歌は低調の時代と書かれていますが、名曲が多いですね。「アルプスの牧場」「ニコライの鐘」「高原の駅よさようなら」等々。
 ラジオ歌謡から流れるクラッシク的な抒情歌や、フィリピンの戦犯釈放のきっかけを作った「あゝモンテンルパの夜は更けて」(昭和27年)、織井茂子が歌った「君の名は」(昭和28年)、そして、高度経済成長の前夜にふさわしい春日八郎が歌った「お富さん」(昭和29年)の大ヒットなどがありました。

あきられる正統派の美声

 歌謡曲は昭和30年代になって大きく変わってきます。経済白書で「もはや戦後ではない」といわれたように、高度経済成長の到来は、日本の社会を大きく変えました。大衆も生活文化が充実し、娯楽である歌謡曲においてもクラシック的な優等生の歌い方では、もう満足しないわけです。
 藤山一郎のような声楽家、淡谷のり子、二葉あき子、渡辺はま子、伊藤久男のよう戦前の音楽学校出身の歌い手は、ヒットチャートの上位から姿を消します。また、小畑実、津村謙などの美声も飽きられます。戦後歌謡界のスター美空ひばり、春日八郎の望郷演歌、民謡調の演歌・故郷演歌の三橋美智也、泣き節の島倉千代子などなどが人気を得て、味のある個性的な声が求められました。
 歌い方は旋律を美しく歌うレガート唱法はかげをひそめ、こぶしを巧みに回し、「ずり上げ」が主流になります。この頃、三浦洸一などはまだ戦前の正統派の歌い方のなごりがありますが、青木光一あたりになると演歌調になるわけです。もっとも、こぶしを巧みに回した歌い方は、戦前の上原敏、田端義夫あたりから始まっていますが、昭和30年代はもっと泥臭く歌うようになります。ですからこの時代になってきますと、あれほど昭和20年代、一世を風靡した岡晴夫のような声も飽きられてきます。

現代演歌、都会派歌謡の時代へ

 昭和30年代の歌謡界の作曲家の勢力地図も大きく変わります。演歌路線では、船村徹、遠藤実、都会派ムード歌謡・吉田正、ジャズの中村八大が勢力図の中心になります。とくに船村徹は、古賀メロディーよりもっと濃い情念を抉り、土俗的で大衆の心をとらえた現代演歌の基本路線をしきます。集団就職で都会に出てきた青年たちの望郷の念や心情に応えた名曲を創作しています。春日八郎が歌った「別れの一本杉」は船村演歌の代表曲です。
 船村、遠藤実らの現代演歌の音楽的な特徴は、洋楽の要素をなるべく薄め、江戸三味線俗謡の肌合い、浪花節調の流行歌、民謡のメロディーなど日本の伝統的な音楽要素を取り入れたことです。当然、作風にも流れるようなメロディーラインなどクラシック的な楽想・格調がなくなります。いろいろな形でクラシックの影響があった日本の流行歌の音楽そのものが変わってきました。また、古賀政男も美空ひばりに接近して現代演歌の源流のスタンスをとります。古賀は初期の洋楽調の音楽個性や戦前の遺産を捨て、現代演歌路線に切り替えました。
 昭和30年代の豊富なメロディーメイカーは古賀政男に代わってビクターの吉田正が活躍しました。フランク永井がジャズのフィーリングで歌った「有楽町で会いましょう」など高度経済成長期の都会のムード、洋酒を飲みながら聴ける都会派ムード歌謡というジャンルを作ります。また、その一方で、日本人のセンチメンタリズムを盛り込んだ歌謡曲や、橋幸夫・吉永小百合が歌った「いつでも夢」などの青春歌謡、エレキブームを反映したリズム歌謡など多彩な作品を世に送りました。

プレスリーから日本のロカビリー

 また、昭和30年代に入って、日本の大衆音楽に大きな影響を及ぼすアメリカの歌手が登場します。エルヴィス・プレスリー(1935〜1977)です。それまで日本で人気があったアメリカの歌手といえば、ビング・クロスビー、フランク・シナトラなどの正統派の歌手でしたが、「ハートブレイクホテル」などで日本でも多くのファンを獲得するのです。そして、日劇ウエスタンカーニバルが昭和33年から始まります。日本のロカビリー、ロックンロールの始まりです。水原弘、坂本九などロカビリー出身歌手が歌謡曲に新生面を切り開きました。
 そのロカビリーに対して、橋幸夫が10代の演歌歌手として登場します。それまでの演歌歌手は、三橋、春日のような大人の歌手と相場が決まっていました。ところが、橋幸夫の登場はその常識を破り、やがて、舟木一夫らの10代歌手が活躍する青春歌謡というジャンルもつくられていきます。<2006.11>

(つづく)

 
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