SPECIAL~特集

特集3.心の計算モデルをつくる(1)文学の美を手がかりに 談 徃住彰文

なぜ文学作品に感動するのかを分析していくと、感情という、一見わけのわからないものも知識と同じように扱える可能性がみえてきます。まず辞書作りから始まった心の記号理論について、東京工業大学大学院社会理工学研究科、価値システム専攻の徃住(とこすみ)彰文さんにお伺いしました。

徃住さんの研究室のホームページ

  <<< HOME
     
 

ミンスキーの雲

 コンピュータ上で実現する心のモデルとしては、自分の夢のような形で目標にしているのは、マーヴィン・ミンスキーの『心の社会』(1985年刊)の次の段階の「雲のモデル」です。空に浮かぶ雲は数億、数十億という無数の水滴からなっていて、水滴それぞれは単純な動きしかしませんが、それが集まるといろいろな状態、形をとります。心をそのように考えるわけです。
 心を構成する無数の小さな要素は、水滴ほど単純ではないと思いますが、心のある働き、たとえば、感情、決断なども、雲と同じように考えられると思います。つまり、単純な要素がそれぞれ運動した結果、全体としてみるとある感情、思考、決断、信念などの心のさまざまな状態をつくり出すというモデルです。
 ミンスキーは雲のモデルについては、まだ本を出していませんが、彼のサイトで「エモーション・マシーン」という題で公表している草稿を見ることができます。ミンスキーは長いこと10年以上書いていると思いますが、時々見ると新しくなっています。
 自分の心も、この雲のモデルが当てはまるという感じもあります。無数の要素からなっている雲と考えると自分の心をよく理解できるといいますか、まとめることをしないところが共通しています。
(ミンスキーのサイトはMarvin Minsky、マービン・ミンスキー、どちらでも検索できます。)

無数のテキストからの決断

 たとえば選挙で政党の選択をしようというときに、使える情報は頭の中にたくさんあるわけです。政治家の言葉、政党のマニフェスト、テレビや新聞の情報などの、無数の単語、文章です。それに、自分の過去の経験、信念等々、これらがいわば水滴に相当します。こうした要素を駆使して、最後にある決定ができるわけです。それが雲の形です。
 個々の情報は、けっしてどちらの党が絶対に正しいというような単純な表現ではなく、こんないい面もあるし、悪い面もあるとか、いろいろ微妙な形で語られるわけです。そうした言語的な情報を私たちは一種の自然言語処理を通じて理解して取り入れています。
 心のさまざまな状態も、結局は、無数の小さな要素の集合体ではないかと考えて、このモデルを実際にコンピュータで実現できるような仕組みをつくることが今の私たちの研究の目標のひとつです。
 それは、コンピュータが私たちの使っている自然言語を理解できることにもつながります。同時に、人間の心をさらに深く知るためにも役に立つはずです。<2005.12>

(つづく)

 
>>> (2)へ <<< この頁のTOP <<< HOME  
 
BACK NUMBER
 
サイトのご利用について