SPECIAL~特集

特集1.先史時代の人の心を探る(1)認知考古学の挑戦 談 桜井準也

日本列島には4万年前くらいの旧石器時代から人間が生活していた痕跡があります。その後の縄文人、弥生人を含めて、先史時代の人々はどのような心を持っていたのでしょうか。認知考古学は、石器や土器などの「もの」を手がかりに、彼らの認知構造や心に迫ろうとしています。その背景には近代とは一体何なのか、現代の未開世界をどう評価するか、という基本的な問題があります。考古学のためだけの考古学ではなく、現在を、未来を考える考古学につながる新しい試み、認知考古学について、慶應義塾大学文学部の桜井準也さんにお話をお伺いしました。

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石器の向こうに人がいる

 従来の考古学は、膨大な数の石器や土器の形、色、文様、あるいは技法などを詳しく調べて、比較、分類し、型式、年代を特定し、大きな成果を上げてきました。そうした型式、技法の考察に止まらず、石器や土器には当時の人の製作行動が記録されているととらえれば、その人たちがどういうものの見方をしていたかを理解する手がかりがあるはずです。考古学の新しい分野である認知考古学は石器や土器の背後にいる作った人に注目し、その認知構造を明らかにしようという試みです。
 石器の研究者は自分でも打製石器を作ることがあります。そうすると、図面や写真を見てもわからない石器の製作者の思考などが想像できます。打製石器は、もとの石を叩いて石片をはがして作るのですが、途中でやめてしまったものがたくさん残っています。もとの石は均一な構造ではないので所々に固い目があり、そこに引っかかってやめてしまったのだなということがわかったりします。

打製から磨製への変化

 石器には250万年という長い歴史があります。石器は土器と違って、単純な構造なので、製作者の複雑な心にまで迫るのは難しいのですが、長い歴史があるので、変遷をたどりやすいといえます。
 日本列島で発見される最古の石器は4万年前くらいと考えられています。縄文時代が始まると考えられている1万3千年前以前を旧石器時代、それ以降を新石器時代と呼んでいます。日本列島で出土する旧石器時代の石器は、台形様石器、ナイフ形石器、尖頭器、細石刃などの変遷が見られ、だんだん洗練された形になってきます。この内、細石刃はあきらかに北方シベリアあたりからの流入だと思われています。
 石器は、大きく旧石器の打製と新石器の磨製に分けられます。打製から磨製へのきっかけになったのは、移動生活から定住生活に移って、木を切る必要が出てきたので、木を切るのは難しい打製石器にかわって、石斧に代表されるような磨製石器が作られたと説明されています。
 日本列島でも縄文時代中期には、作りかけの磨製石斧の破片などが大量に発掘される場所があることから、磨製石器を作る職人集団も成立していたと考えられています。関東では、弥生時代中期に伐採用の太形蛤刃と名付けられている石斧がたくさん出てくるようになります。石斧以外にも、さまざまな磨製石器が発掘されています。
 打製石器は私でも道具さえあれば5分もあれば作れます。磨製石器は、まず打製で形を作って、そのあとに磨いて作りますが、精巧なものは何週間も磨いたと思われます。磨製に変わったことによって石器に対する価値観も変わりますし、分業になったでしょうし、時間感覚も変化したのだろうと思います。

発達心理学から石器をとらえる

 石器の変遷を進化としてとらえ、ピアジェの発達心理学に対応させる見方もあります。現代人の発達年齢と対応させる考え方です。たとえば、原人段階で左右対称を意識したと思われるハンドアックス、現代人の7〜8歳、旧人段階で先を読む洞察力を必要とするルヴァロワ技法、11〜12歳、新人段階でシステム思考から生まれた整った石器、14歳以降というわけです。
 また、旧石器の分析から、人類の空間認識の発達をとらえる見方もあります。200万年前は、「近接」、「分離」、「序列」といった単純な空間概念、120万年前は、直径や半径、左右対称、反射、反転など、30万年前からは、多方向の視点や、現在と同じ三次元的な見方、全体との関係などの空間概念が加わるというのです。こうした見方は、単なる技法の進化ではなく、その背景にある空間認知能力の進化を取り出そうとしています。
 いずれも従来の考古学にはない新しい見方ですが、石器の変遷を、発達、進歩と見ることによって、抜け落ちるものはあるはずです。石器の変遷が進化、発達だという見方自体、近代的な発想だと思いますし、石器を作る能力が低い現代の未開の人たちでも、そんなことと関係なく暮らしています。直線的な進歩観で石器をとらえていいのか疑問が残ります。このことは、人類にとって近代とは何かという大問題とつながってきます。石器や土器からわれわれは何者であるかが、逆に問われてくるのです。<2005.09>

(つづく)

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