「感覚系から見た人間」
特集1.
進化した視覚優位脳
特集2.
聴覚系をつくってみる
特集3.
嗅覚から情動を探る道
SPECIAL~特集

特集1.進化した視覚優位脳(上)ことば偏重には限界も 談 三上章允

ヒトは視覚優位の動物だといわれています。夜行性から昼行性に変わった哺乳動物は視覚系を発達させましたが、特に霊長類は樹上生活でさらに視覚が発達した脳を獲得しました。地上に降りてからも、退化せずに視覚優位の脳が残ったわけです。
ヒトの視覚系は外の世界に直接働きかけ、その結果を脳に取り入れることによって精度の高い知覚を実現してきました。しかし、最近はマルチ・メディアの発達とともに受動的に与えられる視覚情報に頼ることが多くなっています。
視覚も含めて五感を能動的に直接使うことが減ってくると、脳の感覚系は退化するかもしれないと警告する京都大学霊長類研究所の三上章允さんにお話をお伺いしました。

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樹上生活で視覚優位になった

 ヒト、霊長類の感覚の特徴の一つは、視覚優位ということです。情報の収集が視覚に依存しがちであるし、脳の視覚機能の領域も広くて、サルの場合、大脳皮質の半分以上を占めています。視覚に比べて聴覚の処理領域は狭く、大脳皮質の5%にも満たないのです。
 霊長類が視覚優位になった原因の一つは木の上で生活したことです。木の上というのは、枝、葉などがあって見にくい環境ですから、木の実や獲物などの細かいものを探すには、発達した視覚系が必要です。
 それに樹上は三次元的な広がりがありますし、揺れ動く枝から枝へ飛び移るのは、視覚が優位でなければとてもできないことです。地上をはい回っているなら、狭い範囲を見ていればいいわけです。
 樹上生活で視覚系が発達して、地上に降りてきてもそういう視覚優位脳が残ったということです。樹上生活の時に既に昼行性で、その方が長かったわけです。地上に降りてからも昼間の生活で視覚は必要ですから、視覚系が退化する時間はなかったのだと思います。

基本的な視覚機能はヒトとサルとほとんど変わらない

 ヒトの視覚系の、どこまで細かく見えるかとか、どんな色が見えるかといった基本的な機能は、他の霊長類、チンパンジー、ゴリラ、サルと比べてもほとんど同じです。
 サルでも、基本的な図形の認識、たとえば四角とか三角などの図形の処理は、ヒトと同じようにできます。顔の識別もできます。絵画の実験はサルではほとんどないと思いますが、おそらく絵画も見分けられると思います。
 僕自身は、動きの視覚を調べましたが、機能はヒトとサルでほとんど同じです。錯視などもほとんどヒトと同じと考えていいと思います。霊長類の大脳皮質までの視覚系のシステムは、かなり共通性が高いと考えられます。
 サルと人間では何か行動を規定するような視覚系の違いというのは基本的にはないと思います。われわれもヒトとサルとは同じというつもりで実験しています。視覚についての新しい実験のセットを考えたときにも、それが適当かどうかの判断は、まず人間が見て、やってみて、判断します。

違うのは脳の容量、大脳皮質

 同じ霊長類でも脳の大きさは違います。昔の脳は残っていませんから、脳の大きさや形は残っている骨から推測するか、現存する種で比較するしかありません。
 たとえば300万年前の人類の祖先と比べたら、現在のヒトの脳の大きさは3倍になっています。量が増えたのは大脳皮質、特に新皮質が肥大化したためです。チンパンジーと人類の祖先であるアウストラロピテクスは脳の大きさはほとんど同じで、高さが少し違うだけです。アカゲザルとヒトの脳を比べると、大きさは違いますが形はよく似ています。
 ゾウとかイルカ、クジラなどの脳は大きいのですが、ヒトとは形が全然違います。チンパンジーの脳の大きさは、アカゲザルとヒトの中間くらいで、知らない方がチンパンジーの脳を見られたら溝はたくさんありますし、ヒトと区別がつかないと思います。<2004.04>

(つづく)

 
ヒト、チンパンジー、アカゲザルの脳 の外観
左からヒト、チンパンジー、アカゲザルの脳 の外観
 
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