シロダモ

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※このシリーズについて

シロダモ

赤褐色の絹毛に覆われた若葉

文:生原 喜久雄

写真:茂木 透
熊田 達夫

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 常緑広葉樹の高木で、樹高15メートル、直径50センチに達するが、多くは高木の下層で数メートルの小木が多い。
 9〜10月に開花し、果実は翌年10月に成熟するので、ハマビワ属のカゴノキ(本シリーズのカゴノキを参照)と同様、秋に同一株で、黄褐色の花と美しい赤い果実が同時にみられる。クスノキ科の多くの果実は成熟すると黒色になるが、シロダモは赤い果実をつける。
 葉芽は楕円形で先端が尖り、花芽は球形で総苞片で、葉芽と花芽の区別が容易である。総苞片というのは、花序全体を包む鱗片葉のことである。個々の花を包む鱗片葉を、普通の葉と区別して苞、または苞葉という。
 葉の寿命は2〜3年で、常緑広葉樹としては寿命が長いので、陰樹系といえる。
 また、耐風性、耐火性、耐塩性いずれも強い。

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温暖化に伴う森林帯の変化

 シロダモは宮城県や山形県にも分布しており、常緑広葉樹としては耐寒性の強い樹種である。シロダモに似ているヤビニッケイの分布は本州の中南部以西である。
 植物(森林)の分布に重点をおいた世界の気候分布の方法には、平均気温で区分したケッペン(Köppen)の気候区分と積算気温で区分した川喜多・吉良の気候区分が有名である。
 具体的な森林帯の区分方法として、暖かさの指数が提案されている。植物の生育下限を5℃として、暖かさ指数は月平均気温が5℃以上の月平気気温から5℃を差し引き、その数値を1年間合計した値である(本シリーズのタブノキを参照)。常緑広葉樹林の暖かさの指数は180〜85で、落葉広葉樹林は85〜45とされている。
 地球温暖化によって、100年間に平均気温が2〜3℃増加するといわれている。平均気温2℃の増加は、暖かさの指数の変化から推定すると、樹木にとっての気温環境は札幌が高山(岐阜県)に、新潟が静岡に、仙台が水戸に相当するとされている。
 このことからも、平均気温が2℃高まることは、移動が難しい樹木にとっては大変大きな変化といえる。

新葉の紫外線および水分消失の防除

シロダモ 新葉 シロダモの新葉は組織が末成熟で、クチクラ層が発達していないため、春先の紫外線で葉中での酸化力の強い活性酸素の発生による細胞死の恐れがある。クチクラ層は表皮細胞に外側に分泌されたロウ脂質でできた層で、表層からの水分蒸発の抑止や機械的な保護の役目がある。常緑広葉樹の葉につやがあるのはクチクラ層が発達しているためである。
 5月頃、シロダモの新葉が赤褐色(金色)の多量の絹毛で覆われ、直接太陽があたらないよう垂れ下がっているのは紫外線を避けるためである。また、垂れ下がっているのは、直射日光による葉の温度上昇や水分の消失も防いでいる。
 この新葉は枝端を囲んでウサギの耳のように垂れ下がり、よく目立つ。新葉に注目して「ウサギノミミ」、「スズメノコソデ」、「スズメノキモノ」などかわいい名前がついている。葉脈が葉のつけ根近くで3本に分かれて長く伸びる三行脈も大きな特徴である。
 多くの樹木で、春先の新葉が赤色なのは有害な紫外線を選択的に吸収する酵素である抗酸化物質、カロチン、アントシアンなどをもっているからである(本シリーズのフサザクラを参照)。
 シロダモの葉の裏面はロウ脂質のために粉白色で、こすると容易に白色がとれる。葉の裏に毛が多い樹やシロダモのようにロウ脂質があるのは気孔からの水分の蒸散を防いでいる。

ロウソクが採取できる燈用樹木

 シロダモからはロウソク用のロウが採取できる。他にロウの採取が可能な樹種には、イボタノキ、ウルシ、タブノキ、ナンキンハゼ、ヌルデ、ハクウンボク、ハゼノキ(本シリーズ ハゼノキ参照)、ヤマウルシなどがあり、燈用樹木といわれる。
 11月頃、シロダモの果実を採取して、これを水中に漬けておき、外皮や肉皮を腐らせ、内実を乾燥したものから灯火用やロウソク用の油を搾りとる。収量は30%程度である。

クスノキ科に期待される新規化合物

シロダモ 葉 シロダモの葉をちぎって匂いを嗅ぐと、クスノキ科特有の匂いがする。クスノキ科の特徴は精油細胞を樹皮、葉、材に含み、芳香のある揮発性物質を発するものが多いことである。精油原料、香辛料としても重要である。クスノキ、クロモジ、ゲッケイジュ、ニッケイなどが有名である。
 クスノキ科植物は成分研究および成分利用の面からも重要な科で、含有成分の抗菌活性、昆虫の摂食阻害、殺虫作用、薬理作用などの生物活性を調べた報告が多い。特に成分の応用を念頭に置いた研究が積極的に展開されている。

複雑な生態系を形成しているゴール(gall、虫こぶ)

 樹木の葉などにこぶを見ることがある。これは「えい」と呼ばれる。アブラムシ、タマバエ、ハチなどによって作られ、それらのすみかである。いろいろな種類の「えい」があるが、総称して虫こぶ(ゴール)と呼ばれる。
 ゴール形成者は栄養段階からみると植物寄生者であるが、アブラムシによるゴールはイスノキ、ケヤキ、サクラ、ニレ、ハンノキなどにみられる。アブラムシは口吻を樹皮の内側にある師部に刺して養分を吸収する。吸収刺激を受けた植物組織が異常成長し、ゴールが形成される。
 シロダモのゴールはシロダモタマバエによって形成される。シロダモに形成されたゴールをめぐる昆虫群集を調べた調査によると、シロダモタマバエの寄生者として2種の寄生バチ、ゴールに穴を開けて幼虫や蛹を運びだすヒメアリ、成虫を捕食する11種のクモなどが観察され、ゴールだけをみても複雑な生態系を形成していることがわかる。

クリタマバチによるゴールの大発生

 1940年ごろ、中国から岡山県に侵入したクリタマバチの大発生によるゴール形成は経済的に深刻な被害をもたらした。クリタマバチはクリの葉でなく芽にゴールを形成する。形成された芽はシュート(枝条、茎と葉のひとまとまり)が伸びないため、奇形となり花が着かないので、結実量を著しく低下させた。被害はまたたく間に全国に波及し、山地のクリだけでなく、各地のクリ栽培園に大きな被害をもたらした。
 そこで、クリタマバチの原産地である中国からクリタマバチの寄生バチを導入し、全国のクリ栽培地域に放した。その後、クリタマバチは低密度に保たれている。日本で導入天敵による生物防除が成功した数少ない一例である。
 わが国で、生物を用いて害虫を根絶させた有名な成功例がある。沖縄の久米島で、ウリの害虫ウリミバエをウリミバエの不妊オス を多量に放出(不妊中放飼法)することによって根絶させたのである。 <2012.11>

シロダモ 果実

でーた

シロダモ
種名: Neolitsea sericea 別名 シロタブ、ウラジロ。葉の裏が白いタモ(クスノキ科樹木)による。暖帯の山野にきわめて普通に見られる樹であるため方言名が多い。
分類: クスノキ科 シロダモ属。
分布: 本州では、宮城県、山形県以南の沿岸地、京都、滋賀県、三重県の以西および四国、九州、沖縄に普通に見られる。
葉: 単葉で互生。枝の先や節に車輪状に集まってつく。全縁で三行脈が目立つ。葉身は長さ8〜18cm、幅3〜9cmの長楕円形で、先端は鋭頭。表面は革質、裏面はロウ脂質で覆われて白色。葉柄は2〜3cm。若葉は両面とも黄褐色の絹毛で、垂れ下がる。
幹: 樹皮は帯緑暗褐色で平滑、小さい円形の皮目が多い。新枝には黄褐色の毛が密生する。
樹形: 直立し、枝葉が密なため枝張りは著しい箒状型。
花: 雌雄異株。10〜11月、今年枝の葉腋に5〜6個の黄緑色の小花を散形花序につける。花柄は4〜5mmで、雄花は雌花より大きい。雄花の雄しべは6〜8個、雌花には雌しべが1個と退化雄しべが6個ある。
果実: 12〜15mmの液果で、翌年の10〜11月に赤く熟す。種子は1個で、8mmの球形。花柄は上部がやや肥厚する。果実が黄色の品種をキミノシロダモという。
用途: 建築雑用材、器具材、小細工物。種子から燈用、ロウソク用のロウを採取する。公園樹、防風樹、防火樹および日陰地の生垣や庭木に適する。耐陰性を必要とする屋内緑化にも良い。本来の造園木ではないが、緑化木に適している。

(はいばらきくお 東京農工大学 名誉教授 森林生態学)

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