
昔は毎朝仏壇にお香を焚き、お膳をお供えする家が多かった。香材は農山村ではほとんどの家が自家製のものを利用していた。ネムノキの葉はカツラとともに、お香の剤料として全国的に使用されていた。
秋田ではネムノキをマッコウギと呼び、ネムノキの葉を盆近くなると採取し、干して臼で引き抹香を作る。1年中使う分を一度に作っておく。ネムノキを最上とするので抹香木という。


ネムノキの葉にはクエルシトリン、若葉にはビタミンCなどを含む。ゆでて食用にされる。また、牛馬の飼料にもなる。夏季に集めた樹皮を天日乾燥したものを生薬で合歓皮といい、利尿、強壮、鎮痛、駆虫の効果がある。
長野県では、ネムノキの葉とクルミの皮とサンショウの実や葉をつぶして藁灰を混ぜてだんごにし、川に流して魚を獲っていた。
また、上田地方ではネムノキの木部を黒焼きにして、小麦粉でねって打身や打撲の部分に貼る方法が伝承されている。このように、ネムノキは香料、食用、薬用など地域で多目的に利用されている貴重な樹である。

ネムノキは落葉広葉樹の高木で、樹高10メートル、直径30センチに達する。枝は太く、疎生し、樹冠は横に広がる(箒状樹形)。川岸や原野、やや乾いた尾根筋や痩せた土地にもよく見られる。人里近くで多く見られるので、各地の民俗にも縁が深い樹である。
ネムノキは陽樹で森林の伐採跡地や崩壊地、造成斜面などの明るい場所によく生える陽性の先駆木本種(パイオニアツリ−)である。
太い直根があり、強風に強く、潮風に耐える。やせ地・乾燥地に耐えて生育する。痩せ地や乾燥した砂地の保安林等には有用な植栽樹種である。
ネムノキのような陽樹の先駆木本種は、受粉(受精)は風媒、種子は風散で、種子は小さく、種子の寿命は短いが、乾燥に強い。
種子のサヤは長さ10〜15センチ、幅1.5〜2センチ、10月〜12月に褐色に熟し、下側の線に沿って裂開する。樹上に遅くまで残る。サヤの中には10前後の種子(5〜9ミリ)をもつ。

ネムノキが荒れ地に強いのは、空中の遊離窒素(N2)を固定する根粒菌を根に共生的にもっていることも関係している。根粒菌をもっているその他の樹は、わが国ではマメ科のアカシア、ハギ、エニシダ、クズ、非マメ科のハンノキ、ヤシャブシ、ヤマモモ、グミ、モクマオウが有名である。熱帯林では根粒菌を持っている樹種が多いといわれているが、調査した報告は非常に少ない。
根粒菌は遊離窒素を吸収してNH3にかえ樹木に提供するので、「空中窒素を食べる生物」と呼ばれる。一方、樹木からは光合成で生成された糖等をもらう。
ネムノキのように根粒菌をもつ樹木は窒素の少ない立地や荒れ地での生育が可能で、落葉の窒素濃度(3〜4%)が高いため、微生物による分解が促進され、土壌の物理性(通気性、保水性、透水性など)および化学性(pH、窒素、リン酸、カリウムなどの養分)も良くなる。
これらの樹木は肥料木といわれ、鉱山跡地や崩壊地などで播種や植栽が行なわれている。このように、ネムノキは崩壊地や裸地化した立地に生育するための繁殖戦略を持っている。 <2005.08> |