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ネムノキ

シリーズ 自然を読む 樹木の個性を知る、生活を知る

※このシリーズについて

ネムノキ

民俗に縁の深い樹

文:生原 喜久雄
写真:茂木 透
熊田 達夫

 
     
 
 

就寝運動する葉

 ネムノキの葉は特徴的なので見分けやすい。20〜30センチの2回偶数羽状複葉で互生である。2回羽状というのは、全体として羽状で、部分である羽片自体も羽状になっているという意味である。羽片を構成する葉を小葉と呼んでいる。羽片は7〜12で対生。羽片には小葉が15〜30対生する。小葉は包丁型。表面は光沢のある濃緑色で、裏面は粉白色。

※画像をクリックすると、葉のアップがご覧になれます。(FLASHプラグインが必要です。)

 
     
 

ネムノキ 花、葉 ネムノキの名は相対する小葉が合わさる睡眠運動をすることによる。羽片や小葉のつけ根のふくれた部分は葉枕と呼ばれ、就寝運動が起こる。
 夜または酷暑になると、葉は垂れ下がり、向かいあう小葉を閉じるように寄り添い、眠っているように見える(就寝運動)。この様子から中国ではネムノキを「合歓(合歓木)」(ねむ)と呼ぶ。夜、葉は合掌して眠りに入り、葉と交代するように花が咲く。

日没前に開花する香花

 開花は6〜7月、淡紅色の花が10〜20個、頭状に集まって咲く。両性化で日没前に開花する。おしべは、下がぼかしになっている淡紅色、長く柔らかい絹糸状で、多数集まって美しい。筆の穂先を淡紅に染めたように見える。
 夏の夕暮れどき、赤と白に染め分けた絹糸の束を、先端でパッと散らしたような優しい花が咲き、桃の実に似た甘い香りを放つ。
 初夏に広がった樹冠の葉叢の上に点々と淡紅の花を付けている様子は詩情にとんでいる。

 
   
     
 

お香の木 抹香木

 昔は毎朝仏壇にお香を焚き、お膳をお供えする家が多かった。香材は農山村ではほとんどの家が自家製のものを利用していた。ネムノキの葉はカツラとともに、お香の剤料として全国的に使用されていた。
 秋田ではネムノキをマッコウギと呼び、ネムノキの葉を盆近くなると採取し、干して臼で引き抹香を作る。1年中使う分を一度に作っておく。ネムノキを最上とするので抹香木という。

ネムノキ 樹皮

多目的に利用されている有用樹

 ネムノキの葉にはクエルシトリン、若葉にはビタミンCなどを含む。ゆでて食用にされる。また、牛馬の飼料にもなる。夏季に集めた樹皮を天日乾燥したものを生薬で合歓皮といい、利尿、強壮、鎮痛、駆虫の効果がある。
 長野県では、ネムノキの葉とクルミの皮とサンショウの実や葉をつぶして藁灰を混ぜてだんごにし、川に流して魚を獲っていた。
 また、上田地方ではネムノキの木部を黒焼きにして、小麦粉でねって打身や打撲の部分に貼る方法が伝承されている。このように、ネムノキは香料、食用、薬用など地域で多目的に利用されている貴重な樹である。

荒れ地にも強い先駆木本種

 ネムノキは落葉広葉樹の高木で、樹高10メートル、直径30センチに達する。枝は太く、疎生し、樹冠は横に広がる(箒状樹形)。川岸や原野、やや乾いた尾根筋や痩せた土地にもよく見られる。人里近くで多く見られるので、各地の民俗にも縁が深い樹である。
 ネムノキは陽樹で森林の伐採跡地や崩壊地、造成斜面などの明るい場所によく生える陽性の先駆木本種(パイオニアツリ−)である。
 太い直根があり、強風に強く、潮風に耐える。やせ地・乾燥地に耐えて生育する。痩せ地や乾燥した砂地の保安林等には有用な植栽樹種である。
 ネムノキのような陽樹の先駆木本種は、受粉(受精)は風媒、種子は風散で、種子は小さく、種子の寿命は短いが、乾燥に強い。
ネムノキ 種子 種子のサヤは長さ10〜15センチ、幅1.5〜2センチ、10月〜12月に褐色に熟し、下側の線に沿って裂開する。樹上に遅くまで残る。サヤの中には10前後の種子(5〜9ミリ)をもつ。

根粒菌をもつマメ科植物

 ネムノキが荒れ地に強いのは、空中の遊離窒素(N2)を固定する根粒菌を根に共生的にもっていることも関係している。根粒菌をもっているその他の樹は、わが国ではマメ科のアカシア、ハギ、エニシダ、クズ、非マメ科のハンノキ、ヤシャブシ、ヤマモモ、グミ、モクマオウが有名である。熱帯林では根粒菌を持っている樹種が多いといわれているが、調査した報告は非常に少ない。
 根粒菌は遊離窒素を吸収してNH3にかえ樹木に提供するので、「空中窒素を食べる生物」と呼ばれる。一方、樹木からは光合成で生成された糖等をもらう。
 ネムノキのように根粒菌をもつ樹木は窒素の少ない立地や荒れ地での生育が可能で、落葉の窒素濃度(3〜4%)が高いため、微生物による分解が促進され、土壌の物理性(通気性、保水性、透水性など)および化学性(pH、窒素、リン酸、カリウムなどの養分)も良くなる。
 これらの樹木は肥料木といわれ、鉱山跡地や崩壊地などで播種や植栽が行なわれている。このように、ネムノキは崩壊地や裸地化した立地に生育するための繁殖戦略を持っている。 <2005.08>

 
     
  (はいばらきくお 東京農工大学 農学部教授 森林生態学)  
 
 
 
  でーた
  ネムノキ
  種名: Albizia julibrissin Durazzini 中国では合歓または合歓木。
  分類: マメ科ネムノキ科
  英名: Silk flowers, Silk tree
  分布: 日本、中国、南アジアの暖地から熱帯に分布する。日本では青森県および岩手県以北では少ない。
  植栽用途: 崩壊地や痩せ地の緑化木、庭木、街路樹。
 
 
 
   
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