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モミ

シリーズ 自然を読む 樹木の個性を知る、生活を知る

※このシリーズについて

モミ

大木は山の神として

文:生原 喜久雄
写真:茂木 透
熊田 達夫

 
     
 
 

短命で孤独な木

 針葉樹の高木で、樹高25〜45メートル、直径50〜80センチに達する。通直で樹冠は円錐形をなし、枝は輪生して水平に出る。樹皮は暗灰色で普通平滑であるが、老木では鱗片状に割れて剥離し、粗くなる。
 葉は線状で扁平し、長さ2〜3センチで、幅は0.2〜0.4センチである。葉の先端は二又にわかれ、裏面に2条の白色の気孔線がある。
 開花は5月、10月頃、8〜14センチの球果を上部の枝の先に直立する。寿命は短く、100から150年である。
モミ モミ属(Abies)は北半球の温帯から亜熱帯にかけて40数種を産し、日本には5種あり、モミは日本産のモミ属の樹木のうち、最も暖地性のものである。
 日本の森林植生は常緑広葉樹の暖温帯(暖帯)と落葉広葉樹林の冷温帯(温帯)に大きくわけられる。モミ属は中南部低地の暖帯ではカシ類、シイノキ、タブノキなどの常緑広葉樹と、北方と高地(温帯)ではナラ類、クリ、トチノキ,イヌブナなどの落葉広葉樹と混交する。また、暖帯の上部から温帯林の下部にかけて、山地の尾根などにツガとともに天然林をつくる。

 
     
 

風格のある大径木

モミ 樹幹は通直で、太い枝が下部では水平に近く張り出し、梢に近い枝はやや斜め上向きに立つ。若い時の樹冠は整った美しい形の円錐形で、老木になると、やや拡がった広卵状円錐形となる。
 樹幹の形は針葉樹のうちでは下から上へ向かっての太さの減少が大きい、いわゆる「うらごけ」で、安定した美しい風格がある。地元の林業家は、孤立した大径木のモミを山の神として大切にしている。

天然更新による育成

 植栽や播種で森林を育成することを人工更新(人工造林)という。天然の種子の落下や切株からの萌芽を利用して森林を育成することを天然更新という。モミの人工更新はほとんど行なわれておらず、多くは天然更新による。
 モミは陰樹で、要光度は低く、幼時は上木の庇陰下によく生存する。特に落葉広葉樹林やアカマツなどの陽樹林の下木として良好な生育を示す。壮齢期以後は要光度が高くなるので、上層を形成する。深根性、緩傾斜の適潤地を好むが、酸性土壌や乾性土壌にも生育する。

白色の軟材

 材は、辺材と心材の区別がなく、白色。木理(きめ)は概ね通直で肌目は疎。加工は容易だが狂いやすく、保存性は低い。棺おけ、卒塔婆等に用いられる。幼木はクリスマスツリーに用いる。
 樹形の美しい大木となることから風致木や公園、盆栽としても重要である。スイスの民族楽器アルプホルンはスイス産モミ属の根の曲った部分を活かして作る。

「樅の木は残った」

モミ モミの天然分布からみると、福島県以南が多いので、小説「樅の木は残った」にあるように「北国の木」とするには問題がある。青森県から石川県にかけての裏日本および福島県にも非常に少ない。しかし、庄内平野の丘陵地にはモミが生育している。風格があるので、昔から人々に親しみの高い木である。

 
     
 

寒冷に適応した形態

 被子植物の現生数約25万種に対して、裸子植物の中の代表的球果植物である針葉樹類は約67属、約700種に過ぎない。古い裸子植物の多くは第三紀(およそ6500万年)の始めまでに絶滅し、現存するものも針葉樹を除いて衰退に向かっている。
 しかし、針葉樹の中のマツ科植物(トウヒ、モミ、ツガ、カラマツなど)は、北半球の亜寒帯や中緯度の亜高山帯を優占した、広大なバイオマスを形成し、地球環境に大きな役割を果たしている。
 広葉樹にみられる広葉形は、一般に葉を水平に開き、直射日光を光合成に十分に利用しようとする形になっている。多くの針葉樹は葉をやや垂直に展開し、葉の表裏の差が少なく散光を利用する形にしている。
 赤道付近では、直射光の占める割合が大きく、高緯度になるほど直射日光成分が減少し、散光成分が増加する。また高緯度では白夜で弱い散乱光成分が増加する。ことに、モミやトウヒの仲間は高緯度の散光利用に適応した針葉を備えている。
 針葉は、夏の乾燥のほか、長い冬の間の凍結を伴う生理的な乾燥や強風によく適応した形態と機能を発達させている。葉は厚く、表面積が小さく、その表面のクチクラ層は厚くワックスを分泌している。一般に、針葉樹は広葉樹に比べて貧弱な土地でも耐えられる。

酸性雨に弱く、都市には不向き

 1970年代初頭から、西ドイツでこれまでにみられなかった葉の黄化や落葉現象がヨーロッパモミやドイツトウヒでみられ、その後中央ヨーロッパ各国でもさまざまな樹種に異常症状が観察され、国際的にも大きな問題としてとりあげられた。
 ドイツの西南部に広がる「黒い森(シュワルツバルト)」がある。ドナウ川の源流地帯6千平方キロに広がるモミとトウヒの森林で、ドイツ人が「心のふるさと」と呼んでいるこの森林に、1980年に入ってから酸性雨の被害が目立ち始め、1986年には約50%までに被害が急速にひろがった。
 北米では、アパラチア山脈の標高の高い部分で、モミの衰退が1960年代から記録されている。日本でも、1980年代後半から、神奈川県の丹沢山系や福岡県の宝満山のモミの衰退が記録されている。このように酸性雨(公害)に弱い木である。都市域でモミが少ないのは、このためである。 <2005.03>

 
     
  (はいばらきくお 東京農工大学 農学部教授 森林生態学)  
 
 
 
  でーた
  モミ類
  種名: Abies firma Sieb. et Zucc 英名はmomi fir、Japanese fir 日本語では樅
  分類: マツ科モミ属
  分布: 本州(宮城県以南)、四国、九州
 
 
 
 
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    alt=
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