ゑれきてる

 
 
エノキ
エノキ
エノキ

シリーズ 自然を読む 樹木の個性を知る

 

エノキ

大場 秀章
東京大学 総合研究博物館 教授
写真:茂木 透

 「榎僧正」と呼ばれて腹を立てた短気な僧正の話は「徒然草」中の有名な部分(45段)だが、当時町中にエノキがかなりあったことがしのばれる。武蔵野の農家にも普通の樹であったようだ。果実を鳥が食べ、種子は糞として排出されるので、芽生えがあちらこちらで見つかる。屋敷内の樹は植えたというより、このようにして自然に生えてきたものだろう。
 私事だが、実は私は都心部の緑も乏しい地区で生まれ育った。屋根超す大木もそう多いものではなかったが、エノキのことはよく覚えている。まだ植物に興味のなかった私にはエノキはまったくといってよいほど特徴のない樹に映ったからで、何度もエノキの名前をたずねた。
 当時、屋敷林やお寺にエノキは多かった。葉をすっかり落とした冬には私にもエノキの樹がわかった。たいがい梢にヤドリギは冬の花のように寄生していたのである。

エノキ 樹皮

黒味を帯びた灰色の樹皮

 落葉高木で、幹の上方に大きな樹冠をつくる。樹皮は裂けることなく、黒味を帯びた灰色で、点々と皮目がある。新しい枝は黄褐色で、毛が密生するが、2年目の枝は紫色がかった褐色で、毛はほとんどない。

エノキ 葉
▲1

 葉は前年の枝についた葉の腋から出る新しい枝にのみつき、互生し、卵形または長楕円形で、左右が多少非対称になり、長さは4〜9センチで、先はやや尾状にのび、基部はくさび形になる。葉質は厚く、両面ともざらつき、表面では脈の部分は窪み、裏面では出張る。葉の縁には鋸歯があるが、鋸歯の先端には脈が達していない。この点で脈の端が鋸歯の先まで達しているムクノキとのよい区別点になる(写真1)。

エノキ 花 エノキ 果実
▲2 ▲3
 花には雄花と両性花があり、ともに新しい枝につき、開葉とほぼ同時に咲く(写真2)。果実は球形、橙褐色で、直径6ミリほど。やや液質の果肉があるが、種子を包む硬質の内果皮が発達する核果である(写真3)。

熱帯を中心に同属100種

 日本ではエノキ属はエノキにかたちのよく似た4種があるだけなので、エノキ属のことをエノキで代表させて理解しがちだ。だが、この属には熱帯を中心に100もの種があり、その多くは常緑でもある。多くは成長が速く、大木にもなる。
 どのような環境にエノキ属の植物は適応していったのか、まだ十分にはわかっていない。しかし、温帯でも熱帯でも安定した立地よりも、石灰岩地とか湿地とか特殊な立地に適応している種が多いようにみえる。

エノキ 花
エノキ 花
エノキ 花

 植物に詳しい人はエノキはニレ科に分類され、それは体系上クワ科やイラクサ科とともに、ブナ科、カバノキ科などに近いところに位置していたことを覚えていよう。いずれも花びらすなわち花被片の目立たない花をもつことで共通しているが、最近の系統学的な研究はニレ科はクワ科、イラクサ科とともにバラ科やクロウメモドキ科に近縁であることを示唆している。
 詳しいことは省くが、分子データのほか、胚乳がないか少量であること、すべてではないが核果になるなどの共通する特徴をもつ。なお、国蝶オオムラサキはエノキの若葉を餌としているので、これを殖やすにはエノキが必要だ。

漢字の意味は夏に木陰

 かつては漆かぶれなどに効き目があるなど薬用に利用した。また薪炭ともした。材は硬く緻密で、農機具の柄に使ったことからエノキ(柄の木)の名が生まれたという説もある。ケヤキの代用に使うことが多い。エノキに用いる「榎」の字は街道筋によく植えられたこの木の樹冠が、夏に木陰をつくることから生み出された国字である。
 地中海に産するハチスノキ(lote-tree)は街路樹に利用されるが、その果実は古代のハスノミ(lotus)であった。エノキの仲間は一般にHackleberryまたは sugarberryという。果実に甘味があり、食べるのである。その他、染料や木材としての利用も多い。 <2002.10>

でーた
エノキ
種名: Celtis sinensis Pers.
分類: ニレ科エノキ属(Celtis)
分布: 本州、四国、九州。国外では、朝鮮半島、中国、ベトナム、ラオス、タイ。
樹高: よく成長した株は、高さ20メートル、直径1メートルほどになる。成長は速い。
植生: 平地から丘陵地の日当たりのよい場所で、やや湿った土地にも生える。よく似たムクノキと一緒のことも多い。人手の加わった二次林にも多く、屋敷林などでもよくみる。
 

 
 
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